このエントリーは4,850文字で、約7分で読めます。
またしても痛ましい航空機事故が発生してしまった。
5月5日のことになるが、ロシア・モスクワのシェレメチェボ空港で、アエロフロート・ロシア航空のスホイ・スーパージェット100が緊急着陸に失敗し炎上、乗客・乗員41名が亡くなった。事故の原因は落雷ではないかと言われているが、真相究明中の段階なので、安易な判断はできないが、映像を見る限り、相当な勢いで不安定な姿勢のまま着陸を強行しているように見えることから、操縦系統に何等かのトラブルがあった可能性は否定できない。
去る3月には、ボーイングの最新鋭機737MAX8がエチオピアで墜落。昨年のインドネシア沖での墜落事故から立て続けに、同じ最新鋭のデジタル旅客機が墜落している。双方の事故とも乗客・乗員全員が死亡している。こちらは操縦プログラムの設計ミスが原因だとほぼ断定されたようで、ボーイングもその責任の一端を認めている。
飛行機は安全な乗り物
よく言われる話ではあるが、飛行機は地上の乗り物の中で最も安全性が高いと言われている。世界では年間数件の墜落事故が毎年発生しており、墜落までには至らくなても、軽微な事故やトラブルはよくニュースにも取り上げられている。一度事故が発生すると、その甚大な被害は衝撃的であるし、墜落となればまず命の保証がないことから、いくら飛行機が安全な乗り物だと言っても、飛行機には乗りたくないと思う人も多いだろう。
詳細な説明は省くが、各国の統計調査においても、航空機は最も安全な交通用具であることが証明されている。最も事故に遭遇する危険が高いのは道路交通であり、続いて鉄道、船舶 (海難)、航空と続く。
日本では現在も年間3,500人程度が自動車事故により死亡しているが、1970年頃には年間16,000人以上が交通事故で死亡していた。なお、国内で過去最も甚大な被害をもたらした航空機事故は「日航機御巣鷹山墜落事故」で、520人が一度に死亡している。
確率的には、飛行機に乗ることは、鉄道で通勤するよりも、徒歩で道路を歩くよりも安全ということになっているが、飛行機が嫌いな人にはそんな理論が通用しないことは承知している。分かっていても嫌なものは嫌なのだ、と。
どうしても飛行機に乗らなければならない時は
安全だと分かっていても怖いものは怖い。でもどうしても飛行機に乗らなければならない場合、どうしたらいいだろうか。
残念ながら確実に命を保証してくれる方法はないが、可能性のある危険因子を排除することは可能だ。のっぴきならない事情でどうしても飛行機に乗らなければならない時には、次のようなポイントを考慮するといいだろう。
- 過去10年以内に墜落などの甚大な事故を起こしていない航空会社を選ぶ。
- 初就航してから1年以内の新型機材には乗らない。
- 日本人乗務員がいる、或いは、日本語が通じる乗務員がいる航空会社を選ぶ。
- 毎日1便以上運航している路線を選ぶ。
- 大手航空会社が乗り入れている空港を発着する。
この5つのポイントだ。第1の項目は言わずもがなであるが、2項目目以降は注意を払っていて損はない。
航空機メーカーが新規製造を開始して初就航したばかりの新型機材は、運用し始めて初めて分かるトラブルが時々発生する。先述のボーイング737MAX8も、初期不良が発生している段階であるが、今や世界の空の主力機になっているボーイング787は、鳴り物入りで航空業界に搭乗したものの、ご存知の方も多いかと思うが当初はバッテリーが火を噴くというトラブルに見舞われ、しばらく運航停止期間があった。LCCの主力のエアバス320も、デモ飛行中に墜落するという事故が発生し、デジタル化しすぎたシステムがパイロットの意思と相反する自動操縦を強行してしまうというエラーが発覚した。なお、ボーイング787とエアバス320については、既にエラーは改修済みなので、安心して乗ってよい。
3つ目の「日本人乗務員の有無」は、事故が発生した際に緊急避難誘導などの指示が円滑に理解できるかどうかという点で重要である。事故が発生すれば誰もがパニックになるが、乗務員も同様で、母国語が最も優先される事態になる。英語に慣れている人であれば英語圏の航空会社でも安心できるが、そうでない場合は言語が通じる乗務員がいることが安心につながる。
4つ目と5つ目は、空港の設備の面から運航の確実性を高めるという点で注目すべきポイントである。1日1便以上の定期運航があれば、航空会社はその路線の運航に慣れているが、週に数便の運航だと、パイロットの路線経験も毎日運航に比べ劣るケースがあり、緊急事態の際に空港周辺の地理特性などにおいて不利である。飛行機の安全運航においては、航空機自体の安全性はもちろんのこと、空港の立地や施設設備も重要なポイントになる。かつて存在した香港啓徳空港や福岡の北九州空港は、空港の至近に山がある、霧が出やすいなど非常に複雑な地理条件下に立地していたため、経験のあるパイロットでないと乗務に就けないというルールがあったほどだ。また、大手航空会社が乗り入れている空港は、幅広い路線網を持つ航空会社が就航を決定するに至る安全検査をパスしているという点で、空港の安全信頼性が高いと言える。
飛行機の中で安全な座席位置
このような様々な上限をクリアしたとしても、まだ飛行機に乗るのが怖いという人は、自分の座る座席位置でより安全性を担保しよう。
統計的には、航空機の後方座席の方が、事故の際の生存率が高いというデータが存在する。日航機の御巣鷹山墜落事故の際も、生存した4名の座席は後方だった。しかし、先に挙げたロシアでの航空事故では死亡した乗客のほとんどが後方座席だったし、福岡空港で墜落したガルーダインドネシア航空機の事故では、機体中央の座席に座っていた乗客3名のみが死亡した。だからこればかりは飛行機のどこが安全か、という答えは見当たらない。
敢えて言うならば、機内を区切るパーティションの前 (各区画の最後列) の座席が安全だと個人的には思っている。航空機が事故に遭遇した場合、多くの場合は走行からの緊急停止、飛行から墜落といったように、動力による機体の前進運動が停止する。すると慣性の法則で、機内のありとあらゆる物体が前方に向かって飛散する。事故によって死亡や負傷する原因の一つに飛来物の衝撃がある。この飛来物から身を守るためには、背後に障壁があることが最も好ましい。
飛来物が直接身体に衝撃することを防ぐため、緊急時は頭を低くして (座席の背もたれに隠れる)、手荷物は座席の下に格納して、と盛んに機内安全ビデオで注意を促しているのはこのためである。
また、幸いにも事故に遭遇しても無事に航空機が停止した場合、すぐに機外へ脱出しなければならない。頭上の収納棚から荷物を取り出そうなどと考えてはいけない (ロシアの事故では荷物を持ち出す人が多く避難に時間がかかり、取り残された人が死亡したという報道もあった)。すぐに脱出することを考えれば、区画最後列のパーティション前の座席は好都合だ。各区画の間には非常脱出口が必ずあるので、後ろを振り向けばすぐに機外へ脱出できる。その点でいえば、窓側や中央よりも、通路側の座席が緊急脱出には有利だ。
緊急時により安全を確保するために
航空機の事故は、統計によって「魔の11分」に発生することが多いとされている。離陸直後の3分と、着陸直前の8分である。この時間帯には、いつ事故が起きて避難の必要が生じても対応できるように心構えをしておくとよい。
具体的には、
- 離陸前から靴を脱いで寛がない。着陸準備が始まったら靴を履く (緊急脱出の際に靴を履く時間はないし、裸足で避難すれば脱出シューターから飛び降りた際に確実に負傷する)。
- 離陸後、シートベルトサインが消えるまではブランケットは使用しない。着陸前はブランケットを畳んで通行の邪魔にならない場所に置く (脱出時に足元の障害になる)。
- 本当に必要な貴重品は頭上の収納棚に仕舞わず、手元に置いておく (盗難防止のためにも)。
- 離着陸時は必ず座席の背もたれは元の位置に戻す (背もたれが倒れていると脱出の際に後ろの座席の人がスムーズに通れなくなる)。
などである。
出発前、座席についた瞬間から靴を脱いで香しい匂いを振りまいている方が結構いるが、安全を考慮すれば避けた方がいい。ブランケットも同様だ。旅慣れた風を装ってすぐに機内で寛いでいる人を見ると、この人は実は旅慣れていないのだな、と思ってしまう。
離着陸時はシートポジションを元の位置に戻す、荷物を持って避難してはいけないなど、機内安全ビデオで繰り返し求められる注意事項は、実は理に適ったものなので、バカにせず注意を払っていて損はない。
かくいう私も、離着陸時は必ず靴を履き、ブランケットは使用しないでいる。そのお陰で、緊急時にスムーズに機外へ避難できた経験があるのだ。
最終的に生還するためには
全員が死亡した大事故でも、その現場写真を見ると、案外遺体は綺麗な状態の場合もある。こうした状況での死因は内臓破裂が多い (腹部切断というケースも多いが)。
最近はビジネスクラス以上で自動車のような3点留めの肩掛けシートベルトや、腹部にエアバッグを収納したシートベルトを導入しているケースも見かけるが、航空機事故で最も衝撃が加わるのが腹部だ。
時速100km程度で移動する自動車でもシートベルトは腹部と肩の3点で支えているのに、通常の離着陸でも時速200km以上で移動する飛行機のシートベルトが腹部だけというのは何とも心もとない。
先述した通り、航空機事故の際には、時速数百kmで移動している機体が突然停止するのだから、後方から前方に向かって相当な慣性が働く。それは物だけでなく人間の体も同じで、数十kgの身体を支えているのは細いシートベルト1本であるから、どうしても腹部にその衝撃が集中する。その結果、内臓が圧迫されて損傷してしまう。事故の衝撃はかなりのGとなってシートベルトで腹部が抑えつけられながら、体全体が前方に吹き飛ばされるようになる。だから安全姿勢では前のシートを手で押さえて体を支える必要があるのだ。だがこれだけでは不十分だ。
腹部へのダメージを軽減するには、シートベルトに掛かる荷重を分散する必要がある。そのためには、シートベルトと腹部の間に雑誌やブランケットを詰め込んで、シートベルトの「線」を出来るだけ太くして衝撃を可能な限り分散させることが有効だと思われる。そしてできるだけ体を多くの点で支えることだ。前方の座席の背もたれをしっかり押さえる。出来れば前方座席下の支柱を足で押さえて踏ん張る。後ろからの衝撃を腹部に集中させない工夫をすると、より安全性は高まるはずだ。
そうは言っても飛行機は安全
いろいろと書いてはきたが、最初にも記した通り、飛行機はこの世で最も安全な移動手段だ。アメリカの9.11同時多発テロの直後は、飛行機を嫌った多くのアメリカ国民が自動車移動を選び、その結果として死亡事故が増加した、なんてエピソードもある。
日々航空機の安全は進化し、この20年ほどで大規模な航空機事故はかなり減少した。航空機自体の性能も向上したし、航空機の安全運航を見守る地上側の設備も拡充している。空港の施設も同様だ。かつて「危ない航空会社」と言われた途上国の航空会社も、続々と新しい機材を導入し、世界の空はより安全になってきていることは間違いない。
航空機の事故は乗客の立場では防ぎようのない場合がほとんどだが、いざトラブルが起きた時の対処方法は習得しておいても損はない。そして、見過ごしがちな機内安全ビデオの中身も、実は緊急時に役に立つように作られているので、次に飛行機に乗る機会があれば。改めて注目してみてほしい。